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自作小説メモ置き場。 話の序盤だけ書いているものを置きます。続きはおいおい別の場所で書く予定です。 ※未熟ではありますが著作権を放棄しておりません。 著作権に関わる行為は固くお断り致します。 どうぞよろしくお願い致します。

   
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不死鳥の玉座 第一話

不死鳥の玉座




第一章
第一話

アルフォンスは深いため息をついた。大理石の廊下には、彼のブーツのヒールの音が、静かに響いている。母と姉の長々しい説教からようやく解放され、今彼は酷いしかめ面で舌打ちをしながらのろのろと歩いていた。
毎度のことだが聞き飽きている。そしてこれまた毎度のことだが彼女らの説教には何の効果もない。
それを見てわかっていながらよくまあ飽きもせず変わり映えのしない小言を顔を真っ赤にして言えるのか、アルフォンスには彼女たちが気の毒にさえ思えてくる。
アルフォンスは非常に冷めた少年だった。名門貴族ロード家が半世紀近く待ち望んでいた、ようやく生まれた嫡子である。親戚総出で彼を教育したのは言うまで もない。全部で7人もいる姉もまた、どこの家にも負けない素晴らしい青年になるようにと、アルフォンスにとっては要らぬ世話をしてくれた。
12歳まで彼は、繊細ながらも非常に心やさしく素直な少年だった。だが彼は、当時唯一心を開いていた侍女のために、自分で紅茶を入れてみようとしたのだ。誤って熱湯をかぶり、左半身に大やけどを負った。それは侍女の責任とされた。
彼女は、首をはねられた。まだ17歳のうら若き少女であったというのに。
その出来事は幼いアルフォンスの心に暗い影を落とした。さらに、父からの愛情も失った。生々しく残ったやけどの跡に、父は顔をそむけた。まるで汚らわしい ものを見るかのように、冷たい視線を浴びせかけた。逆に母や姉は、アルフォンスをますます猫かわいがりするようになった。ありとあらゆることを身に着けさ せようとした。完璧が求められた。ロード家の中でも、アルフォンスの親子は白い目で見られるようになったからだ。
アルフォンスの中に、激しい憎 悪にも似たどす黒い感情が巣食うようになった。侍女の首をはねるように進言したのはほかでもないロード家の人間たちだった。アルフォンスは、この冷たい牢 獄のような家柄に、いつしか呼吸ができないような苦しさを感じて生きるようになっていた。
それでも人前ではあどけない笑顔を作り、かわいらしい声で応えた。決して、『期待されていない』振る舞いはしないように努めていた。それが次第に息苦しくなっていったのだ。アルフォンスの性格は、そういったものとは全く正反対のものとなってしまっていたからだ。
アルフォンスが初めて、救われた心地がしたのが、社交界デビューをはたした15歳の秋、貴族ソワンジュ家の嫡子ジョシュアとその妹ネシカと出会った時だった。
ジョシュアはかなり変わった少年だった。服装も独特だった。ひざ丈のゆったりとしたズボンにフリルをあしらったブラウス、上にはまるで教会の神父のような 上着をかぶっていて、手足の細さが際立っていた。アルフォンスより2歳も年上のくせに、まるで10歳そこらのあどけない少年の雰囲気をまとっていたから、 その舞踏会にはそぐわない恰好も、なぜかとても似合っていてかわいらしいとさえ思えた。分厚い本を2冊大事そうに抱え込み、ネシカのダンスを見届けるとそ そくさとすみっこへ走って、床に座り込んで本を夢中で読み始めた。アルフォンスはしかし、ジョシュアが気になって仕方がなかった。そっとそばに寄って行く と、ジョシュアはほんのしばらく顔をあげたが、にっこりと笑ってうなずいただけだった。アルフォンスはしばらく彼の隣りに座って、彼の読んでいる本を横か ら眺めていた。いつのまにかネシカもアルフォンスの隣りにしゃがみ込んで、にこにこしながら2人を眺めていた。
しばらくして、ものすごい剣幕でアルフォンスを呼び戻しに来た姉に捕まったが、それまでのわずかな静かな時間が、なぜか泣きたくなるくらい幸せに感じられた。
ロード家に帰りついた途端、アルフォンスは父と母から鞭で叩かれ叱られた。ソワンジュ家と関わったことが、彼らの気に触ったのだ。アルフォンスには、なぜ 怒られなければならないのかわからなかった。その理由を、誰も教えてはくれなかった。誰かに尋ねてみたり、調べさせたりするだけで、それはまた両親に伝わ り、同じようにぶたれた。
だがアルフォンスはすっかり家族に対する信頼をなくしてしまった。それまでどこにもなかった逃げ場の存在に、気づいて しまったことが、アルフォンスの忍耐力をそぎ取ってしまっていた。ここは僕の居場所じゃない。この家にはいたくない。出て行ってやる。そんな希望が日に日 に膨らみ、アルフォンスを興奮させていた。こんなに楽しい気持ちになったことは、今まで一度もなかった。
のたれ死んでもいい。とにかく、ロード家にしばられない、ただのアルフォンスになりたかった。親から与えられたアルフォンスという名前さえ、捨ててしまいたくなった。
社交界にも、もう行けなくなっていた。ソワンジュ家とは関わらないと同意するまで、外に出してはもらえなかった。アルフォンスはある時、たった一人で歩い て街に出た。明け方だった。窓から抜け出し、見張りのものに金を渡した。それでもどうせ家族に言いつけるに違いなかった。だとしても、少しでも時間を稼げ るなら、アルフォンスにとっては十分だった。
わざとマントをゴミ箱に突っ込み、汚くした。乞食のような格好をしていれば、すぐには見つからないだろう。アルフォンスはただ歩いた。どこに行けばいいのか分からない。何も知らないのだから。それでもいつかたどり着けると信じていた。
街にはソワンジュ家のうわさはあふれていた。精神異常者の家系だ、貴族社会ではうとまれており、裏社会にも通じているらしい、けれど、貧しい暮らしをして いる者に、食べ物を定期的に持ってきてくれる。寒くて凍えそうな夜には、当主が自ら街に下り、人々と同じ薄着をして、彼らと寄り添ってひと晩明かす。変 わってはいても、心はやさしいのだ。人々はそう言って穏やかな顔をした。おんぼろの屋敷に住んでいる。改築もせず、お金は街の人々に分け与え、貴族らしか らぬ食事で過ごしている。よそいき着は妹のためのドレス3着しか残っていない。
(続く)


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